先日投稿した、通信と放送の融合に関する議論の続きです。
竹中平蔵総務大臣・郵政民営化担当の私的諮問機関である「通信・放送の在り方に関する懇談会」の第7回会合が、3月22日に霞ヶ関で開催されました。
・開催案内(出席者一覧)
・配付資料
今回も、会合の模様がネット配信されています。
「NTT和田氏の「電話網は国民の物ではない」発言にソフトバンク孫氏が反論」
(2006年3月23日:INTERNET Watch)
●光ファイバは「競争したがりのソフトバンクでも戦えない状況」
孫氏も「競争したがりのソフトバンクが、これほど意欲を持っていながらも光ファイバでは戦えない状況にある」とコメント。「光ファイバは民間が運営するユニバーサル回線会社として独立すべき」との考えを示し、5,000円程度で光ファイバ回線を開放しているNTTに対して「我々の計算では、ユニバーサル回線会社で光回線を整備すれば、1回線につき月額690円で実現できる」との考えを披露した。
●「電話網は国民のものではない」との発言にソフトバンク孫氏が反論
孫氏は「NTTが日本中の家庭に光ファイバを提供できるならばそれは1つの選択肢だろう」とした上で、「独走態勢にありながらも2010年で3,000万回線しか敷設せず、収益性のある場所にしか引かない。できれば競争相手にも貸したくないというNTTには任せられない」とコメント。「3,000万回線だけ敷設すれば、残りの3,000万回線とのデジタルデバイドはますます進むだろう。そうした対策を何の答えもなく、2010年までに何とかすると放置するような企業に国民の重要な基盤を任せていいものか」と追求し、「国民のためにも6,000万回線の光ファイバ化を実現すべき」と主張した。
NTTグループが資本分離することでユーザーにデメリットが生じるのではないかとの質問には、小野寺氏が「短期的にはでデメリットもあるだろうが、長期的に見れば事業者間競争によって国民にもメリットがある」と回答。孫氏は「短期でも長期でもユーザーにメリットはある。競争はより安くいい性能のものを提供するものであり、競争が困るというのはNTTだけ」と付け加えた。
まぁ、「なんでも反対っ!」という姿勢も良いのですが、それではどこぞの野党と同じレベルかと思われます。論旨を拝聴しても、「国民のために~」「国民のメリットは~」などという、安っぽいヒロイックな言葉を並べていますが、その論旨にはなんの具体性もないことが分かります。
(本当に「国民のこと」を思ってのご発言なのか、はたまた「自分の会社のことだけ」を考えてのご発言なのかは、うかがい知れませんが)
唯一の具体的な提示が、「光回線は月額690円で提供できる」ですが、6兆円もの巨額の設備投資をして、6,000万もの光回線を、わずか5年間という短い期間で、全国津々浦々まで張り巡らせるという、まさに夢のような「壮大な」計画です。
原資となる6兆円は、「電話加入者」より政府保証債により調達するそうですが、その実現性如何はさておき(後述)、6,000万もの膨大な光回線を保守する事業運営費が、年間わずか818億円でできると言い切ってしまうところが、いかにも自ら額に汗してインフラを整備したことのない会社の考えそうなことです。0xF9D1
まず、6,000万回線という数値ですが、電話局から加入者宅までの平均線路長を2.0kmとすると、総延長1億2,000万芯km。芯線分岐等による分割損を仮に6割と仮定すると、総延長は2億芯kmにも及びます。地球と太陽との距離が約1億5,000万kmですから、6,000万回線分もの光ファイバ網が、いかに膨大な設備量であるか、イメージしていただけると思います。
つぎに、事業運営費818億円という数値ですが、これは一見とても大きな額のように見えますが、総延長283.3kmを有する首都高速道路株式会社の平成17年度総管理費(総建設費ではない)の削減目標が、838億円とされていますから、2億芯kmで818億円という額が、いかに意味のないいい加減な数値であるかということがお分かりいただけるかと思います。
(もっとも、首都高の場合は、間接費の一部が天下り役人の退職金に充てられているかも知れないので、実際にはもう少し少ない額だと思いますが)
光ファイバ網と高速道路とを比較するのはいささか強引ですが、クルマ好きの方にはイメージしていただきやすいかと思います。要は、これまで「上っツラ」だけのサービスしかやったことのないような会社に、膨大なインフラの「お守り」(おもり)が、あたかも簡単にできてしまうなどと、軽々しく言っていただきたくない、ということです。
話を元に戻します。
今回、某・損さんは、「電話網は国民のものではない」という発言に噛みつかれた訳ですが(=「電話網は国民のものである」との認識)、その主張は、民間出資の「ユニバーサル回線会社」を創設し、その会社にて既存のメタル電話網をすべて光ファイバ網に張り替える、という「壮大な」計画です。
その原資は、これまで電話加入者が積み立てた加入者債権(施設設置負担金、いわゆる電話加入権)を供出させ、総額6兆円もの巨額の資金を調達しようというものです。
ここに、論理のすり替えがあります。
電話加入者が光ファイバによるサービスを利用するか否かに関わらず、また電話加入者の意志に関わらず、
なぜなら、某・損さんの論理では、「電話網は国民のものである」ので、国民の積み立てた資産を使って電話網を光化するのは、「当たり前」なのです。噛みついたのは、そのための「導線」だった訳です。
さすがに、ファイナンシャル・マジックのお上手な、某・損さんのことだけはあります。
それは、今般の「Vodafone巨額買収劇」の狡猾さをみれば、よく分かります。1.7GHz帯を、やんややんやで強引に獲得し、あれだけ自前設備によるサービス展開に固執していた割には、その基本方針をあっさり転換し、1兆7,500億円ともいわれる巨額の資金をマジック(というよりはトリック)のように用意してしまいました。
もっとも、今回の買収はLBO(レバレッジド・バイ・アウト)によるもので、ソフトバンク本体が実際に調達する手元資金は2,000億円ほどでしかありません。一方、自前で基地局設備を全国展開すれば、少なく見積もっても4,000~5,000億円もの投資と2~3年の期間が必要となります。
(これは、相手のフンドシを借りられることを前提にした買収です。失敗すれば、フリチンで相撲を取らなければなりません)
うがった見方をすれば、「砂漠に都市を作る」というヒトには、誰もお金を貸してくれなかったけれども、「すでにある都市を増改築する」といったら、お金を貸してくれた、ということになるでしょうか。
(それだけ、金融市場からは、もはや信用されていないということです)
やはり、光化も携帯事業も、おんぶにだっこ。決して、決して自ら額に汗して設備を作ろうとはしないようです。0xF9D1
ということで、脱線したまま、つぎの号へ。