(1/2) '03/06/15初版,'04/06/21更新 |
[注 意]
ここで紹介するDIYは、HIDバラスト本体の改造を行っているため、万一破損した場合や不具合が発生した場合でも、メーカーの保証は受けられません。また、高電圧(約25,000V)を発生する回路の改造を行っているため、感電や車両火災等の危険性があります。
ここで紹介する情報に基づいて改造を行った結果、万が一何らかの事故や損害等が発生した場合でも、当方は一切の責任を負いません。改造を行う場合には、全てご自分の責任で行ってください。
[はじめに]
さて、「光りものマニア」の職人ですが、いよいよ“禁断の領域”に足を踏み入れてしまいました。0xF9C7
一部では、ご存じの方もいらっしゃると思いますが、HIDバーナーの「ハイワッテージ化」を行います。前回の「HIDバーナーの蒼白化」では、HIDバーナーを青白く(純白に)する取り組みを行いましたが、今回のDIYは、HIDバラストを改造し、放射する光量を劇的に増大させる試みを行います。
なお、今回のDIYについては、
1. 感電や車両火災等の危険性があるため
2. 商売目的のために盗用されることを防ぐため
改造に必要となる詳細情報は、公開しないこととします。掲示板上でも、肝心な部分については一切お答えいたしませんので、あらかじめご了承ください。
また、これは他のDIYと同じですが、今回のDIYについても、受託製作は行いませんので、あわせてご了承ください。
冒頭にも記述したとおり、今回のDIYは、光量の劇的な増大と引き替えに、大きなリスクを伴います。電気回路に十分な知識と経験をお持ちでない方は、手を出さないことをお勧めいたします。
[HIDランプについて]
(まだ考え中です)
[表1] ヘッドランプ用光源の比較 | ||
HIDランプ (D2Sバルブ) | ハロゲンランプ (H1バルブ) | |
ランプ電力 | 35W | 55W |
全光束 | 3,200lm | 15,500lm |
色温度 | 4,500K | 3,200K |
寿命 | 2,000時間 | 300時間 |
[表2] ECE99規格 | |
項 目 | 仕 様 |
定格電圧(バラスト) | 12V |
定格電力(バルブ) | 35W |
試験電圧(バラスト) | 13.5V |
ランプ電圧 | 85±17V |
ランプ電力 | 35±3W |
色座標 | x = 0.375, y = 0.375 |
光束 | 2,800±450lm |
ホットスタートのOFF時間 | 10秒 |
光束立ち上がり | 25%以上/1秒後 80%以上/4秒後 |
[HIDバラストについて]
HIDバラストとは、HIDランプの点灯を制御するユニットのことです。その語源は、船の船底に取り付けられている重りの“Ballast”に由来します。船の船底に取り付け、姿勢を安定させたことから、「安定させるもの」という意味が派生しました。蛍光灯が世に出た時、安定器をバラストと命名したことから、照明の世界では、バラスト=安定器という意味で使用されています。
[図1] | |
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〔点灯方式〕
ECE99の規定では、HIDランプの定格ランプ電圧は、85Vとなっています。一般に、HIDランプの放電を維持するためには、ランプ電圧よりも高い電源電圧が必要となります。しかし、自動車のバッテリーは、通常12V程度であるため、HIDバラストには、昇圧作用を持つ点灯回路(インバータ)が必要となります。
蛍光灯のインバータ照明では、数10kHzの周波数領域で点灯させる「高周波点灯方式」が用いられています。ただし、この方式でHIDランプを点灯させると、音響的な共鳴現象が発生し、ちらつき・立ち消え・ランプ破壊などの不具合が生じることがあります。このため、HIDランプを点灯させる場合には、点灯周波数が数100Hzと低く、音響的共鳴現象が発生しない「低周波矩形波点灯方式」が用いられています。
〔始動方式〕
HIDランプを点灯させるためには、電極間に高電圧を印加して絶縁破壊させ、放電を開始させる必要があります。このため、HIDバラストには、高電圧のパルスを発生する始動回路(イグナイタ)が必要となります。
一般照明で用いられているイグナイタでは、2,000~5,000V程度のパルス電圧を発生してHIDランプを始動させます。しかし、この程度のパルス電圧では、HIDランプを再始動させるまでに相当な待ち時間が必要となり、自動車のヘッドランプには適用することができません。このため、パルス電圧を約25,000Vまで高め、瞬時に再始動可能な方式が用いられています。
なお、ECE99の規定では、安定時の光束を100%とし、始動後1秒で25%の光束、4秒で80%の光束を得る必要があります。このため、HIDランプの始動直後からの一定時間においては、定格点灯時よりもランプ電圧およびランプ電流を大幅に増やす必要があります。これは、一般照明にはない、HIDバラスト独自の必要条件となります。
[図2] | |
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電力調整回路BLSでは、直流電源V1を、負荷であるHIDランプDLの点灯に必要な直流電圧V2に変換します。直流-矩形波変換回路SQRでは、スイッチング素子を用いて高速にON/OFF状態を切り替えることにより、V2を低周波矩形波電圧VLに変換し、DLに供給します。
[図3] | |
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〔電力制御方法〕
制御回路では、HIDランプを安定な電力で点灯させるため、ランプ電圧とランプ電流を検出し、目標の電力となるよう、フィードバック制御をしています。
制御回路の動作は、つぎのとおりです。
- 電力調整回路BLSからの出力から、ランプ電圧に相当するV2とランプ電流に相当するI2を、それぞれ電圧検出器VDTと電流検出器IDTで検出し、電圧信号VVLと電流信号VILを得ます。
- 目標電力発生器WREFで目標電力VWRを発生し、除算器DIVによってVWRをVVLで除して目標電流信号VIRを得ます。
- 誤差増幅器EAでVILとVIRとの誤差信号VERを求め、パルス幅変調器PWMによってBLSのデューティー比を調整します。
定格点灯時においては、WREFの発生するVWRは、35Wの一定値です。ただし、HIDランプの始動時においては、光束を素早く立ち上げるよう、定格よりも高い電圧を与えるとともに、時間が経過するにしたがって一定値となっていくよう、VWRを制御します。これにより、ECE99にある、ランプ始動時における光束立ち上がり規定を満足させることができます。
なお、パッシングなど、HIDランプを数秒程度の短い消灯時間で再始動させる場合、ランプ温度が非常に高い状態にあるため、初始動と同様な過大電力を与えると、再始動直後に過剰な光を発生し、発光管や電極に大きなダメージを与えます。これを避けるため、再始動においては、点灯時間に応じてランプ温度を推定し、VWRを適宜変化させる工夫がなされています。
[ハイワッテージ化の方法]
前述のとおり、HIDバラストの出力は、制御回路CTRによって、定格電力となるよう、フィードバック制御されていることが分かりました。ここで、定格以上の出力を得るためには、どのようにすれば良いでしょうか。
まず、一番簡単な方法としては、目標電力VWRを高める方法が考えられます。また、目標電力VWRは変えずに、電力調整回路BLSの電圧信号VVLまたは電流信号VILを、実際より低く見せ掛ける方法も考えられます。あるいは、目標電流信号VIRまたは誤差信号VERを高める方法も考えられます。
今回は、回路構成上、xxxxの値を変更することで、出力を定格以上に高めることにします。
[ハイワッテージ化によるデメリット]
ハイワッテージ化には、メリットだけではなく、当然、デメリットも存在します。
ハイワッテージ化によるデメリットは、つぎのとおりです。
- 消費電力の増大により、バッテリーへの負担が拡大する。
- (ハロゲンランプと同程度の消費電力)
- 発熱量の増大により、遮熱・放熱対策が必須となる。
- (回路保護のため、ヒートシンク等の装着が必要)
- HIDバーナーの色温度が低下する。
- (放射光が、青白い白から、黄色っぽい白へ変化)
- HIDバーナーの寿命が縮小する。
- (初期点灯時のパルス電圧が高まることにより、HIDバーナーへの負担が増大)
改造にあたっては、これらのデメリットもよく理解した上で、進める必要があります。
[HIDバラストの改造]
能書きはこれくらいにして、さっそくHIDバラストを改造してみることにします。
[写真1] | |||||
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[写真2] | |||||
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[写真3] | |
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[写真4] | |
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[写真7] | |
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[写真8] | |
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[写真9] | |
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[写真10] | |
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[写真11] | |
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[写真12] | |
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[出力電力と照度との関係]
HIDバラストの標準状態では、入力電圧14.11[V]を掛けたところ、一次電圧13.71[V]、一次電流2.976[A]となりました。これにより、一次側の電力は40.8[W]となります。ここで、変換効率を85%とすると、二次側の電力(出力)は34.7[W]となり、ほぼECE99の規格どおりにドライブされていることになります。
半固定抵抗を変化させた時の、出力電力と光度との関係は、つぎのようになりました。
(光度の測定には、ディーラーさんにある光軸調整用の「ライトテスター」をお借りしました。)
〔測定条件〕 光源: PIAA H.I.Dフォグランプ 610H,バーナー: OSRAM D2S(ブルーペイント加工)
出力電力 [W] | 抵抗 [kΩ] | 入力電圧 [V] | 一次電圧 [V] | 一次電流 [A] | 一次電力 [W] | 二次電力 [W] | 光度 [cd] | 比率 [倍] | 備考 |
25 | xxxx | 14.11 | 13.90 | 2.122 | 29.5 | 25.1 | 4,200 | 0.4 | |
30 | xxxx | 13.76 | 2.571 | 35.4 | 30.1 | 6,400 | 0.7 | ||
35 | xxxx | 13.71 | 2.976 | 40.8 | 34.7 | 9,400 | 1.0 | 標準状態 | |
40 | xxxx | 13.61 | 3.447 | 46.9 | 39.9 | 12,000 | 1.3 | ||
45 | xxxx | 13.52 | 3.924 | 53.1 | 45.1 | 14,600 | 1.6 | ||
50 | xxxx | 13.41 | 4.368 | 58.6 | 49.8 | 16,700 | 1.8 | ||
55 | xxxx | 13.28 | 4.908 | 65.2 | 55.4 | 18,600 | 2.0 | ||
60 | xxxx | 13.14 | 5.42 | 71.2 | 60.5 | 20,400 | 2.2 | ||
65 | xxxx | 13.10 | 5.86 | 76.8 | 65.3 | 22,600 | 2.4 | ||
比率:標準状態(35W)の照度を1とした時の割合 |
出力電力を65[W]とすると、標準状態(35[W])の2.4倍もの光度が得られることが分かりました。
なお、今回はフォグランプにて光度の測定を行いましたが、「道路運送車輌の保安基準」では、前部霧灯(フォグランプ)の光度は、1灯あたり10,000[cd]以下であることが定められています(後述)。したがって、出力電力を40[W]程度以上にした時点で、公道上での使用はできなくなります。
ちなみに、バラストを動作させると、「ミーン」という蝉の鳴き声ような高周波特有の音がします。出力電圧を大きくするにしたがって、この「ミーン」という音も大きくなっていきます。出力電力を65[W]以上にすることもできそうですが、“最期の時を迎えようとしている蝉の鳴き声”のようなヤバイ音がしているので、これ以上は止めておきます。0xF9C7
[出力電力変化時の明るさ]
出力電圧を変化させた時の明るさの違いを示します。違いが分かりやすいよう、標準状態の明るさも載せておきます。
〔撮影条件〕 露出:マニュアルモード(F2.8×1'),ホワイトバランス: 蛍光灯モード)
出力電力 | 出力電力変化時の明るさ | 標準状態(35W)の明るさ |
25W | ||
30W | ||
35W | ||
40W | ||
45W | ||
50W | ||
55W | ||
60W | ||
65W |
出力電圧を大きくするにしたがって、明るくなっていることが分かります。同時に、色温度がしだいに低く(青白い白から黄色っぽい白へ)なっていることが分かります。
撮影の際は、65Wの時に明るさがサチらないようシャッター速度を設定したため、35Wの時はそれほど明るくないように見えます。しかし、35Wの時が標準状態の明るさです。逆に考えると、65Wの時は、実は「とんでもなく明るい」ということになります。0xF9CF
どれくらい明るいかいうと・・・。
たとえば、信号待ちで、HIDランプを装着した車と並んで停車したとします。(こちらは消灯しているとします。) となりの車も、ハロゲンランプに比べれば非常に明るい光を発していますが、ここでハイワッテージ化したHIDランプを点灯すると...。
あまりの明るさに、となりの車の光が「かき消されてしまう」ほど、強烈な光を放ってくれます。(これまでこちら側あった影が、逆側にできてしまうほどです。) 公道で点灯するのは、少し気が引けてしまうくらいの明るさです。HIDヘッドランプとHIDフォグランプを同時に点灯すると、1台でナイターができそうです。まさに、走る「光害」です。0xF9C8