前回の続きです。
部品やツールが揃ったところで、いよいよオイル交換作業に入ります。
まずは車体をリフトアップし、リジットラック(ウマ)を掛けます。
リジットラックを掛けるポイントは、図の位置になります。
リヤ側(図の右側)は、円形の目印があるので、分かりやすいです。
フロント側(図の左側)は、目印になるようなものはないのですが、図の左右の三角形の位置あたりに堅牢なフレームが走っているので、だいたいこの辺りに掛ければ大丈夫です。
Audi R8 V10 5.2L quattroのボディー底面です。(画像は、左右の「エアガイド」を取り外してあります)
いつ見ても、惚れ惚れするほど、フルフラットになっています。0xF9CB
しか~し!
すでに見えていますが、アンダーパネルが信じられないぐらいの多数のボルトで固定されているため、これをすべて取り外すという、修行のような作業が待っています。
「アンダーボディトリム(1)」です。
アルミ合金製。
複数の「NASAダクト」が開いています。
「アンダーボディトリム(2)」です。
こちらは樹脂製。
2枚のアンダーパネルを取り外したところです。
エンジンとギアボックスの底面が見えてきました。
ボルトは、全部で63本ありました。
ハードな修行でした。0xF9FC
ちなみに、同じトルクスボルトに見えても、取り付け箇所により4種類ぐらいあったので、忘れないよう、位置と種類をメモに残しながら作業を進めました。
後は、事前に予習したサービスマニュアルどおりの順番で進めます。
まずは、ドレイン番号(1)です。エンジンポンプ下部にあります。
サービスマニュアルには「5mmヘックス」と書いたあったのですが、ドレインボルトは「T30トルクス」でした。
#後期型で仕様が変わったのか。
シーリングワッシャーは「N0138115」、締め付けトルクは10Nmになります。
つづいて、ドレイン番号(2)です。エンジンポンプ側面にあります。
こちらも、ドレイン番号(1)と同様、サービスマニュアルには「5mmヘックス」と書いたあったのですが、ドレインボルトは「T30トルクス」でした。
シーリングワッシャーは「N0138115」、締め付けトルクは10Nmになります。
ドレイン番号(3)です。シーリングフランジ下部にあります。
ドレインボルトは「T30トルクス」です。
シーリングワッシャーは「N0138063」、締め付けトルクは12Nmになります。
ドレイン番号(4)です。オイルリザーバー下部にあります。
ドレインボルトは「M8トリプルスクエア」です。ちょっと奥まったところにあるため、エクステンションがあると便利です。
シーリングワッシャーは「N0138128」、締め付けトルクは22Nmになります。
ここは、かなりのトルクで締め付けられていたため、途中で「外れないのでは?」と挫けそうになりましたが、滑る(なめる)ことなく、無事に外すことができました。
と、その時です。
狭い空間に寝そべって作業していたところ、フレームの一部に「8」の文字が!
隠れミッキーならぬ、隠れ「R8」。0xF9CF
#思わぬ発見。自分でやったヒトしか見れない幸せ。
リヤのマルチリンクサスペンションのロアアームの付け根の辺りで、フレームを貫通している2本のボルトの周囲を盛って、補強してあるようです。
ドレイン番号(5)です。オイルクーラー下部にあります。
ドレインボルトは「M12トリプルスクエア」です。こちらも、ちょっと奥まったところにあるため、エクステンションがあると便利です。
シーリングワッシャーは「N0138157」、締め付けトルクは22Nmになります。
こちらも、かなりのトルクで締め付けられていました。
当初、オイルが「ドバ~ッ!」と出ることを危惧していたのですが、それほどでもありませんでした。
確かに、ドレイン番号(1)のところからは「ドバ~ッ!」と出ます。だいたい、6.5L前後は出るでしょうか。
その他は、最初は「ドバ~ッ!」と出ますが、あらかたドレイン番号(1)から抜けているので、勢いはそれほど強くはありません。
オイルが排出されるのをしばらく待った後、滴下の間隔がほどよく遅くなってきたところで、ウエスでドレイン周辺を拭き取ります。
#オイルが滴下しなくなるまで待っていたら、日が暮れそうなので。
つぎの滴が落ちてくる前に、シーリングワッシャーを組み込んだドレンボルトを捩じ込み、トルクレンチを使って規定のトルクで締め付けます。
その後、ドレイン周辺を、パーツクリーナーできれいに洗浄しておきます。
「おまる」、いや「オイルトレイ」に排出されたオイルです。
「オイル処理ボックス」に、オイルを注いだところです。
オイルは、前回の法定点検にて交換し、期間は約1年、距離は約6,000kmでしたが、かなり汚れていました。
「固めるテンプル」のように化学的に凝固させるタイプかと思っていたのですが、単にコットンに吸わせるタイプでした。
#エンジンオイルの廃棄は、各自治体の規定に基づき、適切に処理する必要があります。
オイルを抜き、ドレインボルトを締めたところで、オイルフィルターを交換します。
オイルフィルターカバーを取り外すため、「32mmソケットレンチ」という、普段はなかなかお目に掛かれないツールを使います。
後から気付いたのですが、高い位置にあるオイルフィルターを取り外してから、低い位置にあるドレインボルトを外すべきでした。
なぜならば、「エンジンの潤滑系の内圧を、いったん大気圧と同じにしてからの方が、オイルの抜けが良くなるのではないか」という、にわかメカニックの勝手な想像からです。
サービスマニュアルにも、その順番で記載があったのですが、なぜ逆順にやってしまったのか、自分でも良く分かりません。0xF9C7
まぁ、この後の結果として、新しいオイルを規定量の8.3Lまで入れることができ、逆順でも変わらなかったので、良しとします。
で、ですね・・・、
ここが、今回の最大の難所でした。リジットラック下の狭い空間でドレインボルトを外すという作業に比べても、です。
オイルフィルターを、新品に交換したいのですが、オイルフィルターカバーが、どうやっても取り外せません。
普通に、オイルフィルターからオイルフィルターカバーを引き抜こうと、相当な力を掛けて引っ張っても、ビクともしません。
サービスマニュアルのどこを読んでも、オイルフィルターカバーの取り外し方について、まったく記載がありません。
オイルフィルターが入っていた、シンプルなAudi純正部品の箱(再生ボール紙使用)にも、当然ながら、まったく記載がありません。
はてさて、どうしたものか?0xF9FC
オイルまみれのフィルターと格闘すること10数分、なんとかカバーを取り外すことができました。
ここまでは、オイルを周囲に垂らすこともなく、我ながら綺麗に作業ができていたのですが、この作業で、ニトリルゴム手袋が、オイルでベタベタになってしまいました。
終わってみると、なんのことはないのですが、気付くまでがたいへんでした。
オイルフィルターの上端をよく見ると、6つの突起があり、ツメが内向きに付いています。これがオイルフィルターカバーとの、嵌合になっています。
このツメをリリースするよう、オイルフィルターとオイルフィルターカバーを斜めにしながら、ちょうど左右の手で鉛筆を折るようなイメージで回していくと、最初に1つのツメが外れます。
その後、さらに回していくことで、つぎつぎに他のツメが外れていくようになります。
#なんという難しい設定なんだ!
オイルフィルターを新品に交換できたところで、元あった位置に取り付けます。
オイルフィルターカバーの締め付けには、今回購入したデジラチェ(デジタルラチェット)、「GEW050-R3」を使いました。
ドレインボルトの締め付けの際にも使用していますが、このデジラチェ、「なぜもっと早く使わなかったのか」と思うほど、とても便利なツールです。
これまでの機械式のトルクレンチで、作業を行う毎に、クルクルと軸を回して指定トルクを調整していたのとは、雲泥の差です。
デジラチェを「ジャッジモード」という状態にし、ボルトを締め付け始めると、指定トルクに近づいていることを、音と色・振動の変化で教えてくれます。
指定トルクは、予め5つまで、メモリーしておくことができます。今回は、ドレインボルトの位置に合わせて10Nm, 12Nm, 22Nmと、オイルフィルターの25Nmを設定しておきました。
また、今回は使用していませんが、作業毎の締め付けトルクのログを、後から確認することもできます。
メカニカルツールにしては、高価な部類に入りますが、投資に見合う便利な道具を、手に入れることができました。0xF9C6
オイルフィルターを取り付けたところで、いよいよ、新しいオイルを注入します。
オイルの注入は、必ずオイルジョッキに入れてから注ぐようにします。オイル缶から直接注ぐとかいう、横着はしてはいけません。0xF9C5
オイルの量の調整は、サービスマニュアルでは、
・規定量8.3Lのうち、7.0Lを注ぐ
・エンジンを掛け、30秒間アイドリングし、停止させる
・残りの1.3Lを注ぐ
・オイルゲージで、オイルの量をチェックする
となっています。
オイル交換では、すべてのオイルが抜け切らず、少し機関内に残っている可能性もあります。
追加の1.3Lをすべて入れず、いったん1.0Lぐらいを入れ、オイルゲージで様子を見た方がよいでしょう。
なお、正確なオイル量の測定は、オイルが適温になった状態で行います。
サービスマニュアルでは、
・エンジンを掛け、油温が100~110℃になるまで待つ
・車両を水平な場所に駐める
・エンジンを約2分間アイドリングさせ、暖める
・エンジンを停止し、約2分間待つ
・オイル量をチェックし、オイルが必要なら注ぎ足す
となっています。
Audi R8の「ディップスティック」(オイルゲージ)による、オイル量の見方です。(V10・V8共通)
「1」の範囲にある場合には、オイルを注ぎ足し、「2」の範囲に入った場合には、それ以上オイルを注ぎ足しません。
ディップスティックの1mmが、オイルの0.04Lに当たるとのことです。
「Type 997(後期型)のオイル補充」(2013年11月4日)
エンジンを掛けて、オイルレベルを確認します。
2目盛のところまで入りました。めでたし、めでたし。0xF9C6
Porsche 911 Carrera S(Type997 Phase2 MY2009)では、オンボードコンピュータのディスプレイに、電子的にオイルレベルが表示されました。
一方、Audi R8 V10 5.2L quattro(MY2014)では、これまでどおりのオイルゲージで、物理的に目視確認ができ、旧来のメカ好きには嬉しい限りです。0xF9CF
オイル量の確認・調整ができたところで、最後に「おまじない」を掛けます。
OBDツールを使って「オイルサービスインターバル」をリセットしておきます。
再びリジットラック下の狭い空間に潜り込み、念のためドレインボルトからオイルが漏れていないかを確認した上で、再び修行(63本のボルト取り付け)を行います。
と、いうことで、これにてオイル交換、完了!
ディーラーやプロショップにお願いするより、大幅に時間が掛かってしまいました。
また各種ツールを揃えたことにより、結果として費用はほとんど変わっていなかったかも知れません。(次回以降は、半額ぐらいでできますが)
しかしながら、自分でオイル交換をしたことにより、これまで見れなかった「隠しアイテム」も見れましたし、我がAudi R8 V10 5.2L quattroに対し、より愛着を深めることができました。0xF9C6
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