久しぶりのこのシリーズ。
iPhoneの発売を、明後日(7月11日)に控え、水を差すわけではありませんが、面白い記事が。
●iPhoneに賭けるソフトバンク、 懸案のデータ通信を伸ばせるか?
(2008年7月4日:ダイヤモンド・オンライン)
ソフトバンクの「期待の星」iPhone(アイフォーン)の発売が7月11日に迫ってきた。「13ヵ月連続純増ナンバーワン」という表向きの華々しいイメージと異なり、同グループは連結ベースで3兆7101億円の負債(長短借入金の合計は2兆352億円)の塊だ。しかも、同業他社より2000円近くも安いARPU(ユーザー1人当たり1ヵ月の平均通信料収入)に苦しむ低収益力会社と言わざるを得ない。
(中略)
このうち、日本向けについて、当初、業界ナンバーワンのNTTドコモがアップルとの契約交渉を有利に進めていたとされる。ところが、孫社長は、旧知のステーブ・ジョブスCEO(最高経営責任者)との極秘トップ会談を繰り返した。そして、大方の予想を覆し、日本向けのiPhoneの販売権を獲得して、ビジネス界をアッと驚かせたのだ。
その急転直下ぶりは、発表にもよくあらわれている。まず、6月4日。ソフトバンクモバイルは、年内にiPhoneを販売すると発表した。ところが、同社自身も、相当慌てて発表したフシがある。というのは、発表内容が「今年中に日本国内においてiPhoneを販売することにつきまして、アップル社と契約を締結しました」(原文)ということしかなく、「いつから」「どういう料金プランをとるか」といった肝心の点についてなにひとつ言及していなかったからだ。
当時、マスコミ関係者が、担当者たちを取材しても、「我々は何も聞かされていない。すべては孫社長が一人で交渉して決めている」という回答しか得られない有り様だった。
iPhone販売を急ぐ裏にARPUの低さへの焦りが
携帯電話機は、販売に際して、技術基準を満たしていることを示す総務省の「認定」が必要だ。そこで、筆者がこうした手続きの状況を問い質しても、ソフトバンクの回答は「ノーコメント」(広報部)と繰り返すだけというお粗末な状況だった。
ところが、その一方で、孫社長は鼻高々で、別の記者会見の席で「(販売する電話機が)潤沢にというわけにはいかない。早い者勝ちという状況になるかもしれない」などと発言。安易に人気を煽っているとしか思えない対応を繰り返した。
これに対して、総務省は「本当に必要な準備が整っているのか」「孫社長の最近の言動には、ADSLやナンバーポータビリティの開始時に混乱を引き起こした反省が見られない」(幹部)と苛立ちを隠さなかった。携帯電話サービスは、稀少な周波数を占有する事業許可制のインフラビジネスである。当然、それなりの責任・品格が求められることから、総務省の苛立ちは当然と言えるものだった。
これまで自ら引き起こした数々の騒動からは、まったく学習していないということです。0xF9D1
(前述の記事の続き)
だが、ソフトバンクはなぜ、まるで焦っているとしか思えないほど、iPhoneの販売を急ぐのだろうか。
実は、電気通信の分野で以前から最も重要な経営指標のひとつとされてきたARPUにその謎を解く鍵が潜んでいる。リードで触れたが、ARPUは、ユーザー1人当たりの月額通信料収入のことを言う。業界全体の競争の激化に伴う実質的な値下げもあって、このARPUは過去数年にわたってじりじりと低下する傾向がみられるのだが、ソフトバンクの問題は、このARPUがライバル達に比べて極端に低いことにある。
例えば、2008年3月期第4四半期(2008年1~3月)のARPUを比較すると、NTTドコモは6050円(うち音声ARPUが3780円、データARPUが2270円)、KDDIのauは5990円(うち音声ARPUが3820円、データARPUが2170円)とそろって約6000円の水準を維持しているのに対して、ソフトバンクのそれは4310円(音声ARPUが2710円、データARPUが1600円)と大きくライバル2社を下回っている。
しかも、過去1年間の総合ARPUの減少額をみても、ドコモが480円、KDDIのauが390円なのに対し、ソフトバンクは900円とその大きさが目立つ。
ARPUとは、Average Revenue Per Userの略で、契約者1人あたりの1ヶ月の平均収入のことで、そのキャリアが、どの程度優良な顧客を掴んでいるかを示す数値の一つです。
実際に、某社のARPUの推移を、第28回定時株主総会資料(2008年6月25日開催)にて確認してみましょう。
〈ARPUの推移および~〉 (資料5ページ)
当期の総合ARPUは第1四半期から5,000円、第2四半期が4,800円、第3四半期が4,520円、第4四半期が4,310円となりました。この総合ARPUの下落は、月額基本使用料980円(税込み)の「ホワイトプラン」の申込件数が順調に増加していることや、「新スーパーボーナス」加入者向けの特別割引の影響によるものです。
さらっと書いてありますが、加入者を集めたいがため、各種割引サービスを連発したお陰で、わずか1年も経たずして、加入者あたりの単金が14%近くも下落しています。
ドコモの同期(2007年度第4四半期)のARPUは6,050円であるのに対し、某社のARPUは4,310円で、30%近くも低い数値です。逆算すると、ドコモと同じ売上げを得るためには、1.4倍の加入者を集めなければなりません。
「13ヵ月連続純増ナンバーワンッ!!」などと、ひとり喜んでいますが、見る人が見れば、いかにそれが薄っぺらいものであるか、よく分かります。0xF9D1
また、一部マスコミでは、「ドコモの一人負け」と揶揄されていますが、顧客特性からすると、ARPUの高い、いわゆる「プライム」の加入者が流失したというよりは、価格に敏感な(=「高額な料金を支払えない」、「安けりゃいい」という)「サブプライム」の加入者が乗り移った、と捉えた方が正しいでしょう。
(加入者変動の「数」ばかりに目がいって、「質」とか「価値」を考えることすらしない、相変わらずここでもマスコミの○ホさ加減を露呈させています)
(前述の記事の続き)
純増ナンバーワン戦略で財務体質が弱体化
こうした数字が意味することは、ソフトバンクの顧客層は、ドコモやKDDIのauと比べて携帯にお金を使わない携帯ユーザーが中心ということだ。つまり、携帯電話会社にとっては、経営効率の悪いユーザーということになる。というのは、不通地帯を減らすための設備投資資金などをなかなか稼がせてくれない側面を持つからである。
そして、ソフトバンクのARPUはボーダフォン時代から低かったが、このところの顧客数の「純増ナンバーワン」を支えるための「ホワイトプラン」「ただとも」などの実質値引きが響き、ソフトバンクの財務体質はむしろ弱体化しているのが実態なのである。
実は、携帯電話業界では、ソフトバンクがこうした状況に陥る可能性が早くから指摘されていた。というのは、ソフトバンクに限らず、契約件数が伸びない苦境を打開するため、何らかの値引き策を打ち出し、ユーザー数を伸ばしてもARPUが低下し、全体としての財務体質が悪化した例は過去にもあるからだ。有名なケースとしては、auが合併当初に打ち出した「ガク割」がその典型とされる。このため、ライバル会社のある社長は早くから「ソフトバンクはARPU地獄に陥るのではないか」と周囲に洩らしていたという。
“ある会社の社長”・・・。(笑)
で、事態はもっと深刻で、「ARPU地獄」の前に、巨額の「借金地獄」が待っています。
こちらも、定時株主総会資料にて確認してみましょう。
(7) 主要な借入先の状況 (資料16ページ)
みずほ信託銀行 1兆4,983億円
シティバンク銀行 1,066億円
三井住友銀行 966億円
みずほコーポレート銀行 907億円
Vodafone Overseas Finance Limited 845億円
ドイツ銀行東京支店 582億円
上田八木短資 300億円
あおぞら銀行 206億円
東京短資 100億円
かわいく、個別の借入額は記載されているのに、総額は明記されていないので、気を利かせて計算してあげましょう。0xF9D1
総額は、(チャリ~ン)1兆9,955億円となります。2兆円ですよ、2兆円っ!!
(「貸借対照表(連結ベース)」(27ページ)において、長期借入金と短期借入金(返済期間1年未満の借金)とを合計すると、2兆352億円となります)
ちなみに、売上高は、連結ベースで2兆7,761億円(携帯事業で1兆6,308億円)、営業利益が、連結ベースで3,242億円(携帯事業で1,745億円)です。
借金が2兆円ともなると、支払うべき利子だけでも相当な額になる訳で、普通の神経なら、“気持ち悪くて食事も喉を通らない”ぐらい(のはず)です。
実際、今期に支払った利息は、なんと1,148億円にも上り(資料28ページ)、携帯事業の営業利益の3分の2を食い潰してしまっています。しかも、これは今期の支払利息であって、今期、さらに借入を増やしているので、来期以降、支払利息はまたさらに増えます。
(っていうか、なんかこっちが気持ち悪くなってきた・・・)0xF9C7
しかして、その借金の原資とは、某氏お得意のいつもの作戦、有形無形問わず、「何でもかんでも証券化」で、借金の形に充ててます。
(資料10ページ他)
アメリカでは、Sprint Nextelを始め、キャリア各社が最終損益で赤字に転落する中で、iPhoneが使えるAT&Tだけが、第1四半期の純利益を20%以上も伸ばしたところを見せられると、そりゃ~、もう、スティーブ・ジョブスに土下座してでも手に入れなければならないですね。
(外国人に、土下座作戦が効くかどうかは分かりませんが・・・)0xF9C7
で、問題のiPhoneですが・・・、
売れるでしょう、最初のうちは。新しいモノ好きの「イノベーター」や「アーリーアダプター」達が欲しがっているうちは、かなりの調子で売れると思います。
(また例によって、「即日完売っ!!」とか、「予約3ヶ月待ちっ!!」とか、派手な煽り宣伝をすると思いますが)0xF9D1
ただ、その「流行り」が去った後、他キャリアに抜きん出て高めの設定(かつ強制加入)の「パケット定額フル」(月額:5,985円)が、これら新しいモノ好きのユーザにどう受け入れられるかは、未知数です。
また、これらのユーザは、四六時中、使いまくります。結果、ネットワークに相当の負荷が掛かります。興きては消えていった過去のキャリアから受け継いだ、某社の継ぎ接ぎだらけの弱っちい通信インフラが、その過大なトラヒックに耐えられるかどうか、疑問です。
あわせて、これらのユーザは、blogやらなんやらで、やたら情報発信しまくるので、「ネットワークが遅い」、「繋がらない」とかいうクレームが、ネット上で1が10になって伝わり、ひとつ間違えると、巨大なマイナスの宣伝効果が生まれます。
(前述の記事の続き)
データ通信が増えれば基地局がパンクする危険も
ただ、ソフトバンクの青写真通り、弱点の強化が進むとは考えられない、と厳しい視点を注ぐ関係者も少なくない。
見方が交錯するのが、iPhoneの料金設定だ。実は、ソフトバンクは、音声電話として人気のホワイトプランでiPhoneを提供するものの、同時に、「Webフルブラウジングはもちろん、動画サービスや地図サービス等を、通信料金を気にすることなく利用できる新サービス」という「パケット定額フル」(月額5985円)の加入も義務付けるというのだ。
この「パケット定額フル」(月額5985円)は、NTTドコモの「パケ放題」(月額4095円)やKDDIのauの「ダブル定額」(月額4410円)に比べて割高感がある。この点について、「一気にデータARPUの向上を狙う戦略が鮮明になった」(関係者)という好意的な見方がある半面で、「ソフトバンクの基地局投資は不十分。加入者が増えると通信障害を起こしかねないため、割高料金を設定して加入者が増えすぎないようにコントロールしようとする意図が透けている」(前述の総務省幹部)と冷ややかな見方も少なくないのが実情だ。この見方は、皮肉なことに、従来の安売り戦略のツケである低ARPUが響き、今後もARPUの向上が難しいというジレンマに陥っているというものだ。
そうした中で、一昨年秋に業界に先駆けて端末の割賦販売モデルを導入し、その初期の利用者たちが端末代金を支払い終える今秋以降、ドコモとKDDIは、ソフトバンクユーザーの切り崩しを本格化するとの観測が存在することも見逃せない。
「携帯・三国史」と呼ばれるビジネス競争の中で、iPhoneはソフトバンクの救世主になり得るのか。いよいよ注目の商戦が、待ったなしでスタートすることになる。
ということで、iPhoneが乱戦時代のホワイトプラン、もとい、ホワイトナイトと成り得るかどうか、「お手並み拝見」ということで。0xF9D1
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